Interview vol.3 『ベルリン在住のアーティスト―たなか鮎子の巻』
- 制作
- 2016年6月13日
- 読了時間: 6分

第3弾は宣伝美術を担当してくださった、たなか鮎子さんです。たなかさんは絵本作家、銅版画家であり、ピコグラフィカパブリッシング&デザインの主宰もされています。
長年東京を中心に活動していらっしゃいましたが、昨年までロンドン、現在はベルリンに活動の拠点を移して創作の幅を広げています。
『海から来た人』のフライヤー、ご覧いただけたでしょうか?「どうやって作るの?」と疑問を抱かれた方も多いのではないかと思います。気になりますね。創作にまつわる色々なお話を聞いてみました。
――まず、今回のビジュアルについてですが、このような立体のオブジェで創作すると決めた理由は何ですか?
ここ数年、立体でイラスト作品を作ることが自分の目標のひとつになっていました。
これまで私は、「物語」から想起するさまざまな場面…絵本や童話、小説などをイラストにする仕事をしてきましたが、物語の世界のもつ、不思議な「奥行」を思うように表現できないことを残念に思っていたのです。
それで、ここしばらく少しずつながら立体の制作を進めてきたんですが、そんな折に声を掛けてもらったのがこのお仕事でした。机上風景さんのお芝居はこれまで数回拝見していて、その静かな佇まいや凜とした空気感が、私の目指す立体の世界と合うのではないかと思い、思い切って今回のポスターのメインイメージとして使ってみることにしました。
今回の作品は立体というより「半立体」ですが、これまでの絵画からあまり遠くない世界観を目指した結果、このような表現に行きつきました。大英博物館にアッシリアのすばらしいレリーフがあるんですが、こういうものからインスピレーションを得ました。
――遺跡からのインスピレーションですか、なるほど!それを聞いて改めて見てみると、長い間地中に埋まっていたようにも感じてきました。時が止まってひんやりとしていますね。実に興味深いビジュアルです。
では、実際に制作に掛かった時間はどれくらいなのでしょう?また、差し支えなければその過程を教えてください。
工程は、おおまかに分けて3つです。立体制作、撮影、レイアウト。
立体は、石粉粘土という、人形やフィギュア制作に使われるクレイを使っています。
まずラフスケッチを描きます。形が決まったら、それを元に平たく伸ばした粘土を型抜きし、形を整えます。粘土が乾くのに2~3日かかります。その後、彫刻刀、ヤスリ、電動グラインダーで削りながら形を整えます。ここからは紙に絵を描くのと同じで、ジェッソで下塗りし、うっすらと絵の具で着彩しました。
立体作品とセットができたら、撮影します。最近、写真家の友人に特訓してもらって、写真の質がぐっと上がりました。
その後、土台や継ぎ目などをデジタル上で修正し、色調やエッジを自分好みに調整します。最後はレイアウト。「海から来た人」という文字は水に溶けるような文字のイメージにして、あとはシンプルに配置しました。色も使わず、文字部分は黒一色です。
乾燥の待ち時間も入れれば、かかったのは10日くらいでしょうか。
――大変手間の掛かる作業ですね。そうやって手を使って作られたものだからか、静かな雰囲気の中にもしっとりと強いエネルギーを感じます。創作過程で一番面白かった点と、苦労した点は何ですか?
面白かった点はなんといってもクレイ制作。よく「土をいじると心が癒される」と聞きますが、本当にその通りだと思います。冷たく柔らかい粘土を手で触るのがとても楽しいです。
――粘土の感触をもう思い出せないくらい触ってません。土すら触っていないかも。癒しの粘土Barとかあったらいいですね。では苦労した点は?
初挑戦ということもあって、粘土の扱いが難しかったです。乾く過程でゆがんだり、彫塑の時、力が入りすぎて思わず「ポキッ」…。何度か絶望の雄叫びをあげました。
ヤスリ作業もなかなか過激で、グラインダーを使ったあと、顔も髪も部屋も真っ白になります。ありがたいことに、今はアパートの大家さんの木工室を使わせてもらえるようになりました。ゴーグルとマスクをつけて作業しています。
もうひとつは、撮影。とても難しいですよね。ライトなどいろいろ試したのですが、結局は自然光に行きつきました。ちょうどこの作品の撮影の時は天気が不安定で、朝からカメラを構え、ずーっといい光を待っていました。「来た!」と思うと太陽が雲に隠れ…みたいなのを繰り返して、なんとか撮影を終えました。
――そのお姿を想像してしまいました。辛抱強さもやはり必要なんですね。笑
たなかさんはデジタルも得意としていらっしゃるけど、アナログな創作法もたくさんご存知だし体当たりするしで、色々試されているから選択の幅が広いのでしょうね。
絵本や本のカバー、挿絵、電子書籍、プラネタリウム原画、アプリなど本当にさまざまな媒体で制作をされていますが、 それらのお仕事と舞台のフライヤーが違う点はありますか?
絵本や挿絵だと、テキストのイメージをストレートに絵にすることを考えますが、今回はお芝居の仕事ということで、いただいた台本の向こうに透けてみえる役者さんたちの世界をなんとなく意識していたように思います。
台本で完成…ではなく、これから生きた体が芝居を作り、それが作品になる、というのが面白いなあ、と。まだ練習過程ということだったので、私も役者の一人になったようなつもりで、自由に台本を解釈してシンプルに表現したいと思って制作しました。
――一緒に稽古してくださっていたのですね?嬉しいです!!媒体としては紙と舞台は全く異なりますが、ひとつの同じ作品に向かって色んなアプローチをされているお話をうかがえて、本当にためになります。
最後の質問になりますが、好きな舞台があったら教えてください。
恥ずかしながらあまり舞台に詳しくなく、数えるぐらいしか見ていないのですが…
お世辞ではなく、机上風景さんのお芝居はとても好きです。きちんとしたメッセージを持った台本や、独特の静けさが逆に心に強く響く演出、役者さんの演技などなど。
他は、ロンドンで何回かみた「ビリー・エリオット」がとても好きです。男の、しかも労働者の世界でバレエダンサーとして羽ばたいていく子どもの話なんですが、歌もダンスも素晴らしかった。
――映画『リトルダンサー』の舞台版ですね!わたしも観にいきました、ビリー・エリオット。劇場が揺れるほど観客が一体となって、忘れられない劇場体験の一つです。来年の夏、ついに日本人キャストで上演するようですよ。
そして、しっかり机上風景もほめてくださってありがとうございます。笑
お忙しいなか本当にありがとうございました。
これからのたなかさんの活動も楽しみにしています。プロースト♪

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たなか鮎子さんのWebSiteはこちらです↓
また、まもなくこちらのページも公開されるそうです(予定)↓ たなか鮎子 新ブログ ウエブサイト「海から来た人」に関するページ ◇◇
※公演期間中、Cafe&Bar木星劇場内に今回のビジュアルの特大ポスターも飾る予定です。こちらもお楽しみに♪
(インタビュー・構成・編集 根津弥生)