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Interview vol.4 『音で酔わす男―堀越竜太郎の巻 前編』

  • 制作
  • 2016年6月16日
  • 読了時間: 8分

インタビュー第4弾。音響スタッフの堀越竜太郎さんです。2001年から机上風景にご尽力いただいており、今年で記念すべき15年。机上風景の作品は作風上、挿入曲などを使わないことが多くなってきているのですが、強烈に覚えているのは堀越さんの音響効果でお客さんが酔ったことです。さて、一体どういうことでしょうか?お話をうかがいました。前編・後編に分けてお送りします。

※後編は6/20午前に掲載予定です

――新作の脚本をお読みになって、いかがでしたか?また、どんな作品になると思いますか。

古川さんの久々の新作ということで、純粋に楽しんで読みました。幻想的ですよね。

これから机上の皆さんが作る作品に対して、自分の立場からどんな色付けが出来るのかという事を、今の時点では考えています。

――どうぞよろしくお願いします。タイトルからして海を感じさせる音はもちろんありそうですが、今回の作品に限らず、音響のプランはどうやって作るのですか?

ザックリ言いますと、まず台本を読んだ時点で必要な情報(音源等)をある程度考え、音の出し方や、必要になってくる機材等も何となく想定します。

その後は稽古や打ち合わせを重ねて、作品が立体的になっていくのと共に、音の方向性も徐々に具体的に見えてくるので、どんどん演出家と擦り合わせて足して削ってを繰り返し、必要な機材や仕込みの内容も練りつつ本番に至る・・・みたいな感じですかね。

――やはり細かい合わせが必要なんですね。中には無茶な注文もあると思うのですが、無い音を探してこんな事をしたことがある、というエピソードや、「あれはすごい音だった!」というのがあれば教えてください(机上以外でも)

ここ(机上)は結構多いですね・・(笑)。

音ネタ(音源)に関して言えば、当然、選択手段として、“ありモノ”の素材もあるけど、ピッタリはまるものはなかなかなくて・・・。

机上のようにここまで現実的な描写にこだわる演出に於いては、やはりこちらもどれだけ追随した作り方をできるかが重要かな、と。

だからと言って、じゃあ具体的に生音を使えば全て正解かと言えばそうでもない。ちゃんと的を得てないと、リアルな生音でも逆に「嘘っぽく」聞こえてしまうことがあるんですよね。その辺の加減が毎回すごく難しいなと思ってました。

自分で作ったものでみなさんに好評だったのは、『サクリレギア』(2003年上演)の劇中のSE(効果音)でした。ごめんなさい、もしかしたら他の作品ともゴッチャになってるかもしれません(苦笑)。

かなり殺伐とした話で、ショッキングでグロテスクな表現が多々あったんです。

その筋の世界の、マンションの一室だったかな。ヤ○ザの人が色々なやり取りをしていて。監禁されている人が、隣の部屋か風呂場かで「消される」んです。死体は秘密裏に処理されるわけですが、その際の人体を解体している音が必要とのことで。で、そこに至る前にまず、「拷問される」というシーンがあるんです。視覚的には実際に見せませんが・・・。

これは悩みました。演出には、「指をニッパー等のハサミで、ばちん!と切る」というイメージで、舞台袖奥からその音が聞こえてくる。

役者の悲鳴と共に、もぎ取られた指が袖からコロンと出てくる・・・。“別室で、それが執り行われてる”わけですよね。

――ひゃー!そ、それはまたすごいシチュエーションですね・・・。堀越さんのそのお話だけでも身がすくみます。それを劇中で、見せずに音で想像させるとは・・・、余計に恐ろしい。腕の聞かせ所ですね!それでどのように?

指を切る・・・。既存の音ネタ等で、俗に「ホラー系・スプラッター系」辺りでも探してみれば何かに該当するかもしれないけど、ちょっと違う気がしたんです。「雰囲気」は作れるだろうけど、それだけ、みたいな。

また、劇場がアリス(タイニイ・アリス、2015年閉館)だったので、小劇場ならではの舞台と客席との空間に、机上風景が作る現実感をもっと共有させてもいいのでは?と思ったんですね。この場合は「身近に起きている、恐ろしい出来事」と言うんでしょうか。とにかく、もう少し突っ込んでいかないと、と思ったんです。

で、いろいろとシュミレーションしてみました。

――どど、どうされたのですか?まさかー!?笑

自分や他人の指を切ってみるわけにはいかないし(苦笑)、切っても数に限りがあるから、あまり失敗できないので(苦笑)。

とりあえず、まず単純に構造から考えてみたんです。おおざっぱに見ても皮・肉(筋)・骨かな、と。そう考えると、道具の大きさにもよるでしょうけど、一瞬にして指を「ばちん」とは両断できないだろうと思ったんです。あとはじゃあ、出来る限り、それに近い感触の物をいろいろ切ってみて録音してみようかな、と。

でその後、どういう過程でその結論に辿り着いたのか、ちょっと思い出せないんですが、結局、使ったのは鉛筆でした。しかも色鉛筆とかではなく、角ばったあの、普通の鉛筆。きっと構造上、周りの材質と中の芯が、当時は「これだ」と思ったのでしょうか・・・?

――誰かの指でなくてよかったです。でも色々切りまくっていたんですね(笑)。鉛筆に辿り着いてホッとしました。

でも、いざニッパーやハサミで切ってみると、意外とあっさり「ばぎん」と切れちゃうんですよね(笑)。男の力では尚更でした。何かちょっと違う。説得力を持たせる為の、多少の誇張・デフォルメは必要だな、と。

なので、刃の部分を磨耗させたり潰すなりして、かなり切れにくくし、それで少しゆっくり切ってみたら・・・「みきみきみき、バチン」みたいな、いかにも“肉を切らせて骨を断つ”っぽいイメージにかなり近い音になり、結果的にそれがすごくハマったようでした。

――なるほどー!確かに、木の繊維の壊れ方とかギシギシと良い音が出そうな気がしてきました。痛そうです。あぁ、鳥肌が・・・

それからもう一つ、こちらも舞台袖中で、人間を大きな鉈で解体している音。黒いビニール袋にまとめている、という音。ビニールに入れたり、落としている音。

さあ、これもどうしたもんかな・・・と思ったんですが、意外とあっさり「こっちに関しては素直に肉だよな」と、とりあえず肉(骨付き)を買ってきて、それを包丁で「叩き切って」みたり、またそれを液体に浸してみました(笑)。

――もしかしてお醤油!?

もうちょっと粘度の高い液体にしました。ごま油とか。あと片栗粉も少し加えたかな?

要は血液っぽい感触です。あ、因みにお肉はロース等の薄切り系ではなく、ブロックなどの固形を使います。・・これ何の話?音の話ですよね(笑)。

――みなさん、お料理のお時間です(笑)

で、それを絡めて、ある程度の塊にしたうえで、まず包丁で結構乱暴に叩き切ってみる。次にそれを床に軽く叩き付けてみる。シンクやまな板だと聞こえ方が変わってしまうので、自分の部屋の床や風呂場でその肉の塊をべちゃっ!てやりました。

「ベタ」ではありますが、それらもイメージに近い音になり、御好評をいただきました。

因みにそのお肉は後でちゃんと食べました。美味しかったです(笑)。

「すごい」というか、皆さんそれぞれの試行錯誤はあると思いますが、僕も当時、こんな風に自分なりに無い頭捻って出来たモノが、作品に少しでも貢献できたことが嬉しかったのを覚えてます。

――リアルな音が撮れて、しかも美味しかったなんて、お肉ってすごい! いや、堀越さんがすごい! そうやって生々しい音をお作りになっているんですね。

生々しいと言えば、強烈に覚えているのは『BUS DRIVER』(2012年初演、2014年海外公演)を上演した際、観客の中に「バスに酔った」という方がいたことです。客席はもちろん動いたりしないのに、堀越さんがバスの走行音を操ったことでお客さんもバスに乗っていると錯覚した。

それは、こちらとしてはすごく嬉しい感想ですよね。そのお客さんにはお気の毒でしたけれど・・・(苦笑)。

ちょっと話が戻ってしまうのですが・・・プランを練る時に、個々の音源を想定すると同時に、その音の出し方(聞かせ方)みたいなことも考えます。

机上のような現実的な描写が濃い作品等は、空間の描写もまたその世界の形成に重要な要素になってきますので、「どれだけその生活空間に浸透できるか」を意識しながら、あーでもないこーでもないと頭抱えてます(苦笑)。

で、この回もプランを立てる時に2通り考えてみまして、バスの中で行われている内容を客席から俯瞰する形を、通常のようにツラ(舞台面)を境にする。もう1つは、客席も舞台と同じ空間と捉える。

どっちもアリだなと考えたんですが、お話が終始、車内での出来事ですし、やはり基本的に現実空間が主体の机上作品においては、観客がもっと共感できる部分があってもいいんじゃないかなと思ったので、後者の方法を実践してみました。

実は今までの作品でも、結構この試みはあったんです。自分なりの「実験」というか「遊び」というか・・・。

――結果的に劇場全部をバスにしてしたのですね!

オペレーションをするとき、運転手のような気持ちだったのですか。それともバス自体になっていたのですか?

この場合、どちらかというとバス自体になっていた、ということになりますかね。もちろん、空間全体や役者さん達の動向にも気を配ってましたが。

あれって確か、尺(上演時間)は1時間ちょいぐらいでしたっけ?お客さんが「酔った」というのは恐らく、ほぼその時間、延々とバスは走り続けていて、途中何回か停車しては走り出し、走行中も音に細かい緩急(エンジン音や路面の振動、ブレーキ)があったからでしょうか・・・?

オペだけで言うなら、実際僕はそんなに大したことはしてないんですよ。何よりは、役者さん達がその音の変化に細かく演技で反応してくださって、「生かして」もらえたのが決定打だったのではないでしょうか。

きっとそのお客さんはすごく集中して観てくださってたんですね・・・(笑)。

――あの音もとてもリアルでした。私たちも舞台上で、走り出す、スピードが上がる、曲がる、減速する、寄せる、止まるなど、身体が堀越さんの音に完全に乗っていました。もはや堀越バスですね(笑)

堀越バス・・・(苦笑)? なんで今、「猫バス」が頭に浮かんだんだろ・・・?(笑)

堀越さん、エグい、いや、興味深い話をありがとうございます。笑

後編では、オペレーションに関すること、堀越さんから見た机上風景についてお伺いしています。どうぞお楽しみに♪

(インタビュー・構成・編集 根津弥生)

 
 
 

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